壁や床がタイルで仕上げられた「在来工法」の浴室は、デザインの自由度が高い一方で、浴槽の交換となるとユニットバスに比べていくつかの注意点があります。安易に工事を進めると、後々大きなトラブルに繋がりかねません。まず、在来工法の浴室で最も重要なのが「防水」です。ユニットバスは、箱全体が防水構造になっていますが、在来工法の場合は、床や壁の下に施工された防水層によって水の侵入を防いでいます。古い浴槽を撤去する際に、この防水層を傷つけてしまうと、階下への水漏れの原因となります。そのため、浴槽を交換する際には、防水工事の知識と経験が豊富な業者に依頼することが絶対条件です。次に、サイズの制約です。在来工法の浴槽は、浴室の広さに合わせて様々なサイズで作られています。既存の浴槽と全く同じサイズの製品が見つかれば良いですが、見つからない場合は、浴槽周りのスペースを埋めるための追加工事が必要になります。逆に、今より大きな浴槽を入れたい場合は、壁を削るなどの大掛かりな工事になる可能性もあります。また、浴槽を撤去してみると、壁や床の下地が腐食していたり、シロアリの被害が見つかったりすることも少なくありません。その場合は、浴槽の交換だけでなく、下地の補修や駆除といった追加工事が発生し、工期も費用も予定より大幅に増えることになります。こうしたリスクがあるため、在来浴室の浴槽交換は、単に設備を入れ替えるだけの作業ではなく、浴室全体の状態を診断するリフォームの一環と捉えるべきです。信頼できる業者と十分に打ち合わせを行い、起こりうる事態を想定しながら、慎重に計画を進めることが成功の秘訣です。
キッチンの逆流は油汚れの悲鳴!シンクがプールになる前に
キッチンのシンクは、家の中で最も排水管が詰まりやすく、そして水が上がってくるという逆流トラブルが起きやすい場所の一つです。その最大の原因は、日々の調理や食器洗いによって流される「油汚れ」にあります。シンクから水が上がってくるのは、排水管が長年蓄積された油汚れに耐えきれず、悲鳴を上げている証拠なのです。なぜキッチンの排水管はこれほど詰まりやすいのでしょうか。フライパンに残った炒め油、肉を焼いたときに出る脂、皿に残ったマヨネーズやドレッシング。これらの油分は、排水口に流された瞬間から、冷たい排水管の内壁に触れて冷え固まり、粘着性のある白い層を形成し始めます。これが詰まりの第一歩です。そして、そこに食器用洗剤が加わることで、事態はさらに悪化します。洗剤と水道水に含まれるミネラル分が、この油汚れと化学反応を起こし、「石鹸カス(金属石鹸)」という、水に溶けない硬い物質を生成します。この石鹸カスが、油の層の上にセメントのようにこびりつき、さらに食べ物のカスや野菜くずが絡みつくことで、排水管の内径は少しずつ、しかし確実に狭くなっていくのです。最初は、排水時に「ゴボゴボ」と音がする程度かもしれません。しかし、それを放置すれば、やがて水の流れが悪くなり、ある日突然、大量の洗い物をした水を処理しきれず、汚れた水がシンクに逆流してきます。こうなると、シンクは濁った水のプールと化し、食事の準備も後片付けもできなくなってしまいます。これを防ぐには、日頃から油を拭き取ってから洗う、目の細かいネットを排水口に設置する、といった予防策が不可欠です。もし、すでに水が上がってくる兆候があるなら、ぬるま湯を溜めて一気に流すなどの初期対応を試し、改善しなければ、手遅れになる前に専門の業者に相談しましょう。
自分でできる?トイレの封水切れ応急処置と予防策
マンションのトイレの封水がなくなっていることに気づいた時、業者や管理会社が対応してくれるまでの間、不快な臭いを何とかしたいと思うのは当然です。そんな時に自分でできる簡単な応急処置と、日頃からできる予防策を知っておくと、落ち着いて対処することができます。まず、最も簡単で即効性のある応急処置は「水を足す」ことです。バケツやペットボトルに水を汲み、便器の中に静かに注ぎ入れ、元の水位まで戻してあげましょう。たったこれだけで、一時的に封水が復活し、下水管からの臭いや害虫の侵入を再びブロックすることができます。ただし、誘導サイホン現象などが原因の場合、またすぐに封水が吸い出されてしまう可能性もあります。その場合は、臭いが気になったらその都度水を足す、という対症療法を繰り返すことになります。また、封水切れの原因が、便器に垂れ下がった髪の毛やトイレットペーパーの切れ端が、毛細管現象で水を吸い上げてしまっているケースも稀にあります。便器の中を一度確認し、もしそのようなものがあれば取り除いてみましょう。次に、日頃からできる予防策ですが、これは主に自分の部屋の排水管を詰まらせない、という観点からのアプローチになります。「自己サイホン現象」を防ぐために、一度に大量のトイレットペーパーを流さないように心がけることが基本です。特に、節水型のトイレは水の勢いが弱い場合があるので、こまめに流す習慣をつけましょう。もちろん、トイレットペーパー以外のものは絶対に流さない、というルールを徹底することも重要です。残念ながら、マンション特有の誘導サイホン現象や通気管の不具合を個人で予防することはできません。しかし、少なくとも自分の部屋が原因となるトラブルのリスクを減らしておくことは、共同生活におけるマナーとして非常に大切です。
水道業者が語る熱湯トラブルの悲惨な現実
私たち水道修理のプロが、洗面所の詰まりで駆けつけた現場で最も頭を抱えるのが、お客様がご自身で「熱湯」による解消を試みた後、というケースです。善意で、そして手軽な方法だと思ってやったことが、かえって事態を深刻化させている例をこれまで何度も目にしてきました。先日も、あるお宅で洗面台の下の収納扉を開けた瞬間、ぐにゃりと歪んだ塩ビ管が目に飛び込んできました。まるで熱い夏のアスファルトに放置された飴細工のように、S字トラップの美しいカーブは見る影もなく、だらしなく垂れ下がり、接続部分からは水が漏れ続けていました。お客様は「ネットで見た通りにやっただけなのに」と肩を落としていましたが、これが熱湯が引き起こす典型的なトラブルの現実です。私たちは、詰まりを解消する際には専用の道具を使います。軽度の詰まりであれば「トーラー」と呼ばれる業務用のワイヤーブラシで物理的に汚れを削り取りますし、頑固な詰まりには「高圧洗浄機」で強力な水圧をかけて配管内を丸ごと洗浄します。これらの方法は、配管を傷つけることなく、根本原因を確実に除去するための技術です。しかし、お客様が熱湯を流して配管を変形させてしまった後では、この専門技術を使うことすらできません。まずは破損した配管を全て交換するという、本来必要のなかった作業から始めなければならないのです。詰まりの修理費に加えて、高額な部品交換費用と追加の作業費がかかってしまう。お客様の「少しでも安く済ませよう」という思いが、真逆の結果を招いてしまう瞬間を目の当たりにするのは、私たちにとっても非常につらいことです。どうか覚えておいてください。インターネット上の手軽な情報は、必ずしもあなたの家の設備に適しているとは限りません。特に熱湯は、詰まり解消法ではなく、配管破壊法だと認識していただくのが、悲劇を避ける一番の近道です。