その家族を長く悩ませていたのは、家の中に漂う原因不明の不快な臭いでした。どれだけ換気をして、芳香剤を置き、入念に掃除をしても、キッチンの奥や洗面所の隅から、ふとした瞬間に漂ってくる下水のような湿った臭い。最初は気のせいだと思い込もうとしていましたが、次第に壁紙の隅に黒ずんだカビが広がり始め、家族の健康状態、特に子供の咳が止まらなくなったことで、事態は深刻な局面を迎えました。建築業者や清掃業者に相談しても「特に異常は見当たらない」と言われ続け、途方に暮れていた時、最後の望みを託して呼んだのが、漏水調査を専門とする熟練の職人でした。彼は最新の探知機を片手に、家中の配管経路を丹念に辿り、ついにその原因を突き止めました。それは、キッチンのシステム背面、壁の内部を通っていた垂直な排水管の水漏れでした。数年前の小さな地震の際、配管の支持金具が外れ、その衝撃で継手にわずかなズレが生じていたのです。そこからお湯を使うたびに、霧吹きで吹きかける程度の極微量の汚水が、壁の裏側に漏れ続けていました。水たまりを作るほどではないその微量な漏水が、数年という月日をかけて断熱材を腐らせ、壁の内部をカビの温床に変えていたのです。まさに、排水管の水漏れが「目に見えない毒」として家族の生活を蝕んでいた瞬間でした。壁を剥がしてみると、そこには想像を絶する光景が広がっていましたが、原因が特定されたことで、家族の心にはようやく光が差しました。この一件が教えてくれたのは、排水管の水漏れは必ずしも派手に水が溢れるものだけではないということです。むしろ、こうした「気づかない程度の漏れ」こそが、建物の深部を破壊し、住人の健康を奪う最も恐ろしい存在なのです。修理を終え、壁を新調し、配管が正しく繋がれた後、あの不快な臭いは嘘のように消え去りました。家は沈黙していますが、臭いやカビ、湿気という言葉にならない言語で、常に自らの苦境を私たちに訴えています。排水管の水漏れというトラブルに直面した時、私たちが持つべきは、単なる修理の技術ではなく、家が発する微かなサインを拾い上げ、原因を究明しようとする真摯な眼差しなのかもしれません。
原因不明の悪臭とカビの発生を追いかけて見つけた隠れた排水漏れ